「さくら」の建て前を楽しみに待っていたOさん

「さくら」の計画を応援し、完成を楽しみに待ってくれていた知人・友人は大勢いましたが、中でもOさんのことは忘れられません。当時Oさんは七十八歳くらいでしたが、もとは文部省の上級職員で、正義感の強い、自分の意見をしっかりと主張されるすてきな女性でした。
「この歳まで、気に入ったいい男が出てこなかったんだよ」だから未だに独身なんだ、と冗談っぽく話します。その一方では、
「私の恋人は、今じゃ離れられなくなったM先生だよ」と、かかりつけの医師のM先生をご指名です。
「私の命の恩人、大切な先生」と信頼し、
「私が死んだら、家も財産も全部先生にカンパするんだ」と言っていました。当のM先生は、ニコニコしながら、
「そんなことできないよ、そんなこと考えないで体大事にしなさい」と、いつもOさんを励ましていました。
そのOさんは、なぜか私のことも気に入ってくれ、日頃からなにくれとなく声を掛けてくれていましたが、とりわけ、高齢者の共同住宅を私がつくるということにたいへん興味をもち、
「これからは、こういう家が絶対必要だよ。頑張って、資金が足りないときは声を掛けるように」と、常に励ましてくれました。また、
「私も入りたいけど、心臓病でいつどうなるか分からないから、病院が近い自分の家にいるよ。そのかわりOOさんをいれてあげてよ」などともいっていました。工事も進み、いよいよ建て前の日が決まったある日、私がそのことを知らせるとOさんは、
「いい日だねえ、無事に工事が終わるように建て前は盛大にやろう」と、まるで自分で「さくら」を建てるような意気込みで張り切ってくれました。

建て前当日、Oさんは、お赤飯二斗、紅白の丸もち一斗を近所の和菓子屋さんから届けてくださいました。その上、お酒と段ボール箱三箱のお菓子に「縁起ものだよ」と、三万三千三百三十三円を袋にいれてもってきてくれ、
「割り切れない数を柱のてっぺんから下へ投げると、いい家が出来上がるよ」と、うれしそうにお金を私に手渡してくださいました。
式の準備をしていた棟梁達はそれを聞いて、
「気分がいいねえ、近ごろ、こんなことする家少ないから、うれしいねえ」若い大工さんも、
「こんなのはじめてだよ」と神妙な顔です。いよいよ建て前の儀式です。ふと周りを見ると、近所にこんなに大勢いたのかと思うほど人が集まっていました。連れ合いも、お酒や塩などを持ってへっぴり腰で、こわごわ足場の不安定な三階に、棟梁達について上って行きます。まもなく、建物の四隅でお払いが始まりました。見上げる私もちょっぴり心配です。
それが終わると、三階の人たちはやおら、お金、丸もち、お菓子などを下の人々めがけバラバラとふりまきはじめました。このときばかりは、大人も童心にかえり、子供達と先を争ってもちを拾い合い、大騒ぎ。
そして最後は、頭の棟梁が「今日は、気分最高」と、木遣歌で祝ってくれましたが、あとは次々と歌が出てカラオケ大会に早変わり。みんなで「さくら」の誕生を祝ってくれました。
こんなに楽しい建て前を演出してくれたOさんは、「よかったね。いい家が出来るよ」と、みんなとお赤飯やてんぷらを摘みながら、うれしそうに祝ってくださいました。
それから三カ月後、Oさんは「さくら」の完成を待たずに、大好きなM先生に看取られて亡くなりました。
あの日から七年がたつた今、国の「高齢者リビング支援モデル事業」の第一号に「さくら」が選ばれました。この知らせを聞いたとき、私は真っ先にOさんの顔を思い浮かべました。もしこの事をOさんに知らせることができたなら、Oさんは「ほんとによかったね」と、心から喜んでくれたことと思います。

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