刊行にあたって

一九九O年十二月、ひとりぼっちのおとしよりをなくそう。誰も知らないうちに亡くなっているなんて、あまりにも切ない九おとしよりが六人集まり、互いに支え合って共同生活をする。「健康で百歳まで生きよう」を合い言葉にスタートしたグループハウス「さくら」は、今年八周年を迎えました。六人の入居者のなかには、身寄りのない人、家族のある人もいて条件もそれぞれ異なりますが、自立して老後を過ごしたいという人たちの集まりです。
私にいっ頃、こうした構想が生まれたのかあまり定かではありません。ただ、たくさんの要因が重なり合って徐々にふくらみ始め、一つ一つの事象にぶつかるたびに現実味をおび、後戻りができない程ライフ・ワークとしての確信につながっていったということでしょうか。
一つには、私自身が、大家族(十二人兄弟の末っ子)の中で育った環境があったこと、二つには、結婚し共働きの中で、職場に、保育園に、小、中学校のPTA等を通して、かぎりない人と人との出合いがあったこと。(とりわけ将来設計の夢がふくらんだ時期でした)。そして、大きなきっかけになったのは、十二年前、八十九才で亡くなった母に痴呆症が現れ、病に倒れて入院、以来、八年間にわたって兄姉と看るという経験でした。
計画の決定的な足掛かりは、私の一九七五年から九五年までの浦和市の市議会議員としての体験にあったと言えましょう。
この間、全国の有料や軽費老人ホiム等を多数見学してきました。しかし、残念ながら私
が将来入りたいと思うような所は一つもありませんでした。これはと思うところは、途方もなく費用が高く、安いところはプライバシーが守られていない、その上、管理だけは厳しい。こうなれば後は自分でやるしかない、自分が入りたいと思うホームを作ろう、その思いだけでした。
ちょうどその頃、古くなったわが家を建て直すことになり、家族の了解のもとに、おとしよりが住める部屋も一緒に作る計画を立てました。家を取り壊した跡地に三階建のビルを建て、二一階と二階の一部分を自宅用に、一、二階におとしよりの個室六部屋を備えた家を建てました。
時はバブルの真っ盛りで、古いアパートが次々高層マンションになり、おとしよりが追い立てられて社会問題化、六人の入居募集に六十四人の申込みがありました。
昨年末、「さくら」は思いがけず厚生省の「高齢者グループリビング支援モデル事業」の
第一号に指定されました。この事が地方新聞で報じられると、小さな「さくら」が一躍世間の脚光を浴びることになりました。新聞、テレビ、雑誌の取材攻勢が始まり、福祉団体の関係者、議員、シルバー産業、さらには個人やグループでの見学者が後を断たない状態となりました。私もあちらこちらと引っ張り出され、ますます忙しくなりましたが、「さくら」の住人たちも、連日押しかけてくる見学者の応対で大変です。
個人の小さな力でスタートしたグループハウス「さくら」ですが、この事をきっかけにして、私は改めてわが国の老人問題の深刻さを強く認識させられました。住人の一人、八十五歳のTさんはいつも言っています。
「生きるということは大変なこと、なかなか自分の思うようになりません。でも、私は『さくら』にきて本当によかった。言いたいことが言え、好きなことが何でもやれるのですから」六人のそんな言葉を励みに、私はこれからも「さくら」と共に歩いて行きたいと思います。
高齢化問題が益々深刻化する中で、「さくら」のようにおとしよりが気軽に利用できる共同生活の場が、より多くの方々に理解されポストの数ほど全国に誕生してほしいと私は心から願っています。

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